1.農業についての考え方と農業者としても核燃料サイクル事業や再処理工場に
対する思い
エンジンの設計がしたくてトヨタ自動車に入社したが、地元を離れてみて、生まれ故
郷の良さに気付いた。子供の頃にコンバインに乗って稲刈りした面白さを忘れる事がで きず、後は継がないと言い残してトヨタ自動車に就職したにもかかわらず、逆に自分か ら農業をやりたいと思って帰ってきた。
自然の恵みによって育つ生き物を相手にし、人間もまた自然の恵みによって生かされ
ていると実感する。人間(生物)が生きていくために無くてはならないものを順番に示 すならば、1.空気、2.水、3.食料(養分)。お金と電気は無いよりはあった方が いい程度。
核燃料サイクルの行き詰まりはより明確になってきた。8割以上の県民は原子力施設
に不安を感じている。事故によって放射能が漏れる事も不安の一つであろう。しかし、 再処理工場が稼動すると、事故ではなくても、放射能が排気塔と海洋放出管から自然環 境に放出される。迷惑施設のナンバ−1だと思う。
2.再処理工場がこれまでに青森県民、地域住民に与えたもの(あるいは奪った
もの)
十分な議論を尽くし県民の理解を得る事もせず、国家権力と核燃マネ−で反対意見を
抑え込み、強引に推進する手法は、青森県民の一体感の醸成を阻害しただけではなく、 独立自尊の精神までも奪い取ったと思う。
3.風評被害に対する考え方
放射線について正しく理解している消費者は極めて少ないと思う。イメ−ジで判断す
る消費者が、安全安心を求めて、有害な物質のより少ない方を選ぶのは、当然の消費行 動であろう。その際に、食べ物に含まれる放射能が多いのと少ないのが並んでいたらど ちらを選ぶであろうか。自然豊かな青森県から原子力の青森県に変貌しつつある。青森 県産という表示を見て消費者は何を連想するのか。手に取った農産物の産地表示を見て 棚に戻す。知らぬ間に消費者の選択肢から青森県産品が外されていく。生産者にとって 一番怖いのは、証明できない被害である。
ウラン試験が開始される5ヶ月前(平成16年7月)に県が行った消費者アンケ−ト
の結果を見て愕然とした。「青森県産品を安心して食べられない」との回答が2.5% とあった。癌が発見され、「青森県の余命」を宣告されたような思いがした。安心して 食べられない理由が気になり、インタ−ネットでアンケ−ト調査を行った結果、理由の 9割は「放射能」だった。
賛成・反対・慎重・不安・無関心。核燃に対する考えは人それぞれである。しかし、
どの人も生産者にとっては大事な消費者である。放射能の危険性を認識し、反対したり 不安を訴えたりする人達が、再処理工場稼動後も青森県産品を買い続けてくれるとは思 えない。
自然環境に放射能を出す再処理工場の稼動は、それに起因して今後起こる全ての被害
が、もはや風評被害ではなく、実被害として取り扱われていく転換点であると認識して いる。
4.アクティブ試験、操業を間近に控えた現在の心境
三位一体となって推進するの国・県・事業者に対し、私なりに可能な限りの機会を捉
え、十分過ぎる程の忠告はしてきたつもりだ。日本原燃は営利を目的とする株式会社で あるが、青森県には、県民の生命と財産を守る責任がある。特に、青森県民としての誇 り・名誉を守るようにと強く訴えてきたつもりである。三村知事が、「国にぶらさがっ て生きるしかない情けない青森県」を選択するかどうかだと思う。核燃料サイクルとい う国策の中では、三村知事も兒島社長も一歯車に過ぎない。それでいて、最高責任者で ある小泉総理の顔は全く見えてこない。日本の資源エネルギ−政策について小泉総理と 徹底的に議論してみたい。
5.日本原燃という企業に対する会、あるいは個人のスタンス
日本原燃が、放射能を自然環境に撒き散らす企業である以上、農業者との共存は絶対
にありえない。安全協定の締結が、日本原燃に、農家の農産物を放射能で汚染する許可 を与えるものであるとは思っていない。もし、再処理工場から放出された放射能によっ て、私の農産物から自然放射線以外の放射線が検出された場合は、日本原燃に対して損 害賠償を求めていく。
6.六ヶ所村の農業を守る会の活動について、どのように感じているか
抗議文の内容も根拠が曖昧で不自然な点が多く、石久保会長に電話で確認したとこ
ろ、抗議文を作成したのも、マスコミに記者会見を知らせたのも別の人だと言った。多 くの人に誤解を与える発言があり、すでに名誉棄損に該当する行為を受けたと感じてい る。今後は公開の場での議論を求めていきたい。
六ヶ所村の農業を守る会に対しては、六ヶ所村という限定した範囲ではなく、青森県
の農業を守るという意識で活動していって欲しい。今後は、再処理工場の存在と、同工 場から出る放射能が、青森県の農業にどのような影響を及ぼすのかを一緒に考えていけ ればいいと思う。
7.これまで、再処理工場内で起きたトラブルや、国内外の原子力関連施設で発
生した事故等をどう考えるか。
稼動40年を迎えようとしている老朽原発でさえ、貯蔵プ−ルから水が洩れたという
話を聞いた事がない。最新の技術が投入されたはずの再処理工場で、単純な大型容器で しかない貯蔵プ−ルから水漏れが二度も起きた。不安の高まりを受けて県民説明会まで 開催し、「総点検を実施し、品質保証体制を確立する」と誓い、国もそれを評価した が、その直後に、貯蔵建屋の設計ミスが発覚した。それらを通じて思った事は、将来、 事故やトラブルにつながる再処理工場に潜在する欠陥は、国・県・事業者が何重に検査 をしても通り抜ける事があるという事である。「国お墨付き」はもはや気休めにすらな らない。
JCOの臨界事故では、二日後に安全宣言が出されたにも関わらず茨城県の農家は打
撃を受けた。美浜原発の水蒸気漏れ事故では、放射能が漏れた訳でもないのに、海水浴 シ−ズンの観光客が宿泊をキャンセルするという被害が起きた。
一般の国民・消費者は、実際よりも過敏に反応するという事を肝に銘じて置かなけれ
ばならない。
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